所得税制上は、デリバティブ(先物・FX・オプション等)や仮想通貨などの雑所得の損益と、株式の損益を通算することが出来ません。しかし、金融商品であるオプションを用いることによって、それが多かれ少なかれ可能となりますので、その方法を紹介しようと思います。
雑所得には2種類あります。国内証券会社の店頭デリバティブと国内上場デリバティブは、特例として分離課税の雑所得になります(No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例)。それ以外、海外のデリバティブは通常の総合課税の雑所得となります。仮想通貨(暗号資産)は国内・海外に関わらず総合課税の雑所得となります。
私が試したのは総合課税の雑所得と株式との損益通算なのですが、分離課税の雑所得でも行けるかもしれません。
雑所得(総合課税)を損益通算する場合、海外上場株式オプションを使用します。雑所得(分離課税)の場合は、国内上場株式オプション(かぶオプ)を使用します。
どちらの場合でも原理は同じですが、国内での「かぶオプ」でどの程度のことが出来るのか分かりません。出来たとしても、取引コストは高くなると思います。
ここでは海外上場株式オプションで行う、雑所得(総合課税)と株式の損益通算の方法を紹介します。
海外上場株式オプションは、IB証券(インタラクティブ・ブローカーズ証券)が行いやすいです。オプションのスプレッド取引がかなり自由にできるためです。Firstrade証券もスプレッド取引ができますが、その組み合わせに制限があるようなので、この記事で紹介するスプレッド取引ができるかどうかは確認してみてください。スプレッド取引が出来ない場合でも、個別に注文を出すことは出来ます。
参考:Firstrade証券、およびIB証券について
また、国内業者であるサクソバンク証券でも外国株式オプションは行えますが、どこまで自由に取引ができるか私は把握していないのと、税制上、分離課税の雑所得になるという情報もあります(しかし、海外上場オプションであれば国内業者であっても総合課税になるというのが私の調査結果ですが)。
原理としては、株式オプションは権利行使によって株式に変換できることを利用します。その時の損益ですが、権利行使した(された)オプションは決済された訳では無いのでオプションの損益は発生せず、その損益はそのまま変換後の株式に加算されるようです。
つまり、オプションを決済するか権利行使するかによって、任意にオプションの損益を株式の損益に移すことが出来るということです。
株式のロングを模倣したオプションと、ショートを模倣したオプションを両建てし、株式価格が上下どちらに動いたかによって、どちらかのオプションを権利行使し、取得した株式ポジションおよび残りのオプションを決済します。
なるべくスプレッドコストを抑えるために、流動性の高いオプションを選びます。これらのオプションは残存期間にもよりますが比較的近い満期であれば1ティック(最小値幅)のスプレッドコストで済むと思います。
また、価格水準が高い銘柄のほうがスプレッドコストは相対的に小さいので、スプレッドコストが抑えられます。
これらの条件に当てはまるのは、現時点で、SPY、QQQ、IWM、Apple、Amazon、Microsoft、Tesla、NVIDIAなどのオプションが挙げられると思います。
また、ボラティリティの高い銘柄ほど損益を出しやすいですが、原資産のスプレッドコストも高くなる傾向にあります。ただしオプションのスプレッドコストは最小で売買できると思われるため、原資産を売買しない方法(後述)であれば問題無いと思います。
以上のことを踏まえると、大きな損益の移転をしやすいのは価格水準にもよりますがNVDAやTSLAだと思います。ただし高ボラティリティ銘柄は必要以上に大きな値動きになる可能性もあるので、値動きは随時チェックしておくのが良いと思います。
銘柄検索は、Yahoo Financeなどの株式スクリーナー(https://finance.yahoo.com/screener/new ※このスクリーナーにはETFは含まれません)で、Priceが100以上、Average Volumeが10,000,000以上、のような条件で検索してみると良いと思います。
ただし配当を生じる銘柄のオプションについては、配当落ち日を期限内に入れないようにしたほうが良いと思います。配当落ち日があると事情が複雑になります。
基本の方法
まず基本的な方法は、ボックススプレッドを作る方法です。基本の方法とは言え、原理を理解するための方法であり、実際にお薦めの方法は後述します。なので読み飛ばしてもらっても構いません。
具体的には、2つのシンセティックを組み合わせます。1つめは、原資産価格より上の権利行使価格でプット買い+コール売り(株式のショートを合成したポジション)を行います。2つめは、原資産価格より下の権利行使価格でコール買い+プット売り(株式のロングを合成したポジション)を行います。そして原資産がどちらかに変動するのを待ちます。
オプションに損失を発生させ、株式の利益としたい場合、利益の出ているインザマネーオプションを権利行使し、取得した原資産の決済+残りのオプションの決済を行います。
オプションに利益を乗せ、株式を損失としたい場合は、損失になっているインザマネーオプションを権利行使し、取得した原資産の決済+残りのオプションの決済を行います。
注意点がいくつかあるので記します。
・ロングオプションがインザマネーとなるように、プット買いは原資産より上の権利行使価格、コール買いは原資産より下の権利行使価格で仕掛けます。そうしないとこちらの任意で権利行使ができません。米国株式オプションはアメリカンタイプなので、期限前権利行使が可能です。
・権利行使価格は、原資産価格からなるべく離します。期限前権利行使をした際に、オプションに残った時間価値が無駄になるのをなるべく防ぐのが一つです。2つめの理由は、アウトオブザマネー(OTM)のショートオプションの損益の影響をなるべく抑えるためです。例えばオプションを損失とさせたい場合でも、ショートオプションに利益が乗っているとその分が相殺されます。
・損益通算の額は、原資産の決済とオプションの決済を行った時点で決定します。権利行使の時点では決定しません。どちらを先に行っても良いです。
・原資産価格が、どちらかの権利行使価格を超えては権利行使できないので、その前に権利行使を行います。
・権利行使価格を原資産価格から離す必要があるので、必然的に必要資金が多くなります。
追記・・・オプション売りは組み合わせず、時間価値がほぼゼロであるディープ・インザマネーのプット買い+コール買いだけのほうが簡単かもしれません。時間価値がほぼゼロであればオプション売りをする必要が無いです。その代わり権利行使価格を原資産価格から一定以上離す必要があるので必要資金は多くなります。
この場合、原資産価格が権利行使価格に近付く又は超える確率はかなり低いですが、仮にそうなったらそれは利益が出ているということなので、本来の目的を放棄して全決済すれば利益が確定します。
権利行使価格は必要以上に原資産価格から離す必要はありません。時間価値が0に近いものの中で、原資産価格に近いものを選択します。原資産価格から離し過ぎるとスプレッドコストが高くなる傾向がありますし、必要資金が無駄に多くなります。
また細かいことかもしれませんが、プットは金利の影響で時間価値の適正価値がマイナスになることがあります。しかしアメリカンタイプでは時間価値はマイナスにはなり得ません。ITMのプットは権利行使価格を原資産価格から離していくと、時間価値の適正価値が0からマイナスになっていく可能性がありますが、適正価値がマイナスでも実際は0になりますので、そのようなオプションを購入すると損をするため(多少ですが)注意したほうが良いということです。
以上は基本的な方法ですが、もっと簡単な方法もあります。上記の方法では4つのオプションレッグを使用する必要があり、コストが嵩み、必要資金も多いです(プット買い+コール買いの方法では2つのオプションレッグのみでコストも抑えられますが必要資金は多くなります)。次に紹介する方法では、少し制限があり変則的ですがコストが抑えられ、必要資金も少なくなります。
コールスプレッドを利用する方法(おすすめ)
インザマネーのコールスプレッドを使用する方法です。
原資産価格からできるだけ下の権利行使価格で、コール買い+コール売りのスプレッドを作ります。権利行使価格は一つずらします。
同じ権利行使価格でコール買いとコール売りを両建てするのは少なくともIB証券ではできません。また、同じ権利行使価格だとコール買いを権利行使した時に自身のコール売りに割り当てが来る可能性も場合によっては(後述のように、open interestが少ない場合)あります。
ディープインザマネーのコール買いは原資産のロングの代替で、ディープインザマネーのコール売りは原資産のショートの代替です。
この方法では、コール買いの部分では権利行使ができますが、コール売りの部分では権利行使は自分からは出来ません。期限になって権利行使されるのを待つ必要があります。
この方法の欠点は、コール売りの部分が期限前権利行使にさらされる可能性があることです。これを避けるために、まず市場参加者のオプション保有残高(open interest)がほとんど無い銘柄(ウィークリーオプションに多い)については、コール売りの価格が本質的価値を下回らないように注文します。本質価値を下回る価格で約定してしまうと即座に期限前権利行使をされる可能性が高いです。実際はスプレッドとして注文するので、個別のレッグについて価格指定は出来ないのですが、同じ権利行使価格のプットを見て、0.02以上の価値を残したものを選ぶと良いと思います。※ただし市場金利が一定程度ある場合、コールには時間価値が乗るはずなのであまり気にする必要は無いかもしれません。
次に、市場参加者のオプション保有残高(open interest)が十分に多い銘柄(マンスリーの満期日に多い)の場合は、期限前権利行使の可能性がほぼゼロだと思うので、もっと好きに権利行使価格を選べます。
権利行使されたオプションの割り当ては基本的にランダムに行われるようなので、市場参加者のオプション保有残高が多いほど、自分に割り当てが来る確率が下がります。
いずれの方法でも、なるべく原資産価格が権利行使価格を下回らないように、権利行使価格はなるべく下に設定します。ただ、あまり下過ぎてもスプレッドコストが高くなる可能性がありますので注意してください。
また、満期日前に原資産に配当が発生するものについては配当落ち日に余計なコストがかかったり期限前権利行使されたりする可能性があるため、配当日を満期内に入れないようにするのが簡単です。
例としてオプションに損失を出したい場合について解説します。
原資産が上がっている場合(オプションに損失を出す時)
まず単純な方法は次の通りです。
期限近くになって原資産価格が上がっている場合はコール買いを権利行使し、「原資産の売り(決済)+コール売りの決済」を行います。権利行使の順序は後でも構いません(Firstradeのように両建てが可能な証券会社の場合は、権利行使を後で行うと原資産の両建てになってしまうかもしれませんので確認してください)。「原資産の売り+コール売りの決済」を行った時点で損益が確定します。
次に、お薦めの方法を紹介します。
こちらは期限近くまで待たなくても損益を確定させることもできます。
原資産の売買は行わず、「原資産の売り」の代わりに「新規コール売り」を行います。
具体的には「コール売りの決済→新規コール売り」を行い、期限になってコール売りとコール買いが権利行使されるのを待ちます。
- (要点1)コール買いの権利行使は期限になってから行う
- コールを早期に権利行使すると時間価値を手放すことになります。時間価値が0に近ければ良いですが、市場金利が一定程度ある場合、それがコールの時間価値を上昇させているので一定の時間価値は残るはずです。
- (要点2)「原資産の売り」の代わりに「新規コール売り」を行う
- 原資産のショートポジションを期限まで維持するのは、個人投資家にとって余計なコスト(貸株料等)がかかるため、コール売りのほうが通常はコストが抑えられます。
「コール売りの決済→新規コール売り」は、コールスプレッド注文として出すと良いです。その場合、IBのように両建てが不可能な証券会社の場合、新規コール売りの権利行使価格は、保有ポジションのどちらの権利行使価格からもずらす必要があります。
また新規コール売りは期限前権利行使はされにくいと思いますが(一定の市場金利がある状況下では時間価値が残っているため)、仮にされてもこちらのコール買いを権利行使すれば良いです。
この方法は、期限間近でも使えます。場合により、原資産を直接扱うよりもコストが安くなる場合があるかもしれません。ボラティリティの高めの銘柄に関しては、原資産のスプレッドコストよりもオプションのスプレッドコスト(コールスプレッドの場合)のほうが安い場合があります。
お薦めの方法(原資産を直接扱わない方法)では、一度損益確定した後、満期日を迎えるまでに、価格動向によっては再度損益確定を重ねることも可能です。
例えば、原資産価格が更に上昇した場合は、再度コール売りを決済し、新規コール売りを行うことができます。逆に原資産価格が急落し、コール買いに損失が出る水準までなった場合は、コール買いを決済して新規コール買いを行うことができます(原資産が下がっている場合については次項参照)。
原資産が下がっている場合(オプションに損失を出す時)
基本的に、前項に準じます。
単純な方法としては、期限近くになって原資産価格が下がっている場合は「原資産の買い+コール買いの決済」を行い、そのまま期限を迎えてコール売りが権利行使されるのを待ちます。「原資産の買い+コール買いの決済」を行った時点で損益が確定します。
またこちらも同様にお薦めの方法としては、原資産を直接扱わない方法です。
「原資産の買い」の代わりに「新規コール買い」を行います。期限近くまで待たずに行えます。
具体的には「コール買いの決済→新規コール買い」を行い、期限になってコール買いとコール売りが権利行使されるのを待ちます。
要点は、「原資産の買い」の代わりに「新規コール買い」を行う点です。
原資産ロングを長く保持するのには以下のデメリットがあります。
第一に、大きな現金支出の取引になるので現金余力が少ない場合は借金になる可能性があり、その場合は当該借金にかかる、証券会社による上乗せ金利分の余計なコストがかかります。通常は、保持しているコール売りからベース金利分は収入になるはずなので(コールの価格は金利により押し上げられています)、ベース金利部分のコストは相殺されると予想できます。
第二に、原資産の空売りにかかるコスト(貸株料や、空売り制限リスクにかかるコストなど)がコール価格を押し下げていると思われるため、「コール売り(Deep ITM)+原資産ロング」のポジションでは、このコスト分だけ損をすると思われます(個人投資家は原資産ロングから十分な貸株料収入などを得られない一方、コールには貸株料等が反映されるため)。
この方法でも同様にスプレッド注文として出すと便利です。
また、一度損益確定した後、価格動向によっては再度損益確定することができます。
まとめ、および注意点等
反対に、オプションに利益を出し、株式に損失を出したい時は、反対のことをすれば良いだけです。
色々と細かく解説しましたが、端的に言うと以下です。
「コールスプレッドを作り、オプションに損失を出したい時は損失が出ているlegを決済して再度建てる。オプションに利益を出したい時は利益が出ているlegを決済して再度建てる。」
コストについては細かく見てきましたが、要するに、オプションや先物は個人投資家であってもプロ投資家と同じように低コストで運用できますが、原資産の運用では個人投資家には余計なコストがかかると理解すると良いと思います。
もし配当落ち日が満期内に入る場合は、以下に気をつけます。
・配当落ち日直前になると、時間価値の無いショートコールは権利行使される可能性が高いので、ショートコールが権利行使されたくない状況であれば少し前にショートコールを決済します。
・一方で時間価値の無いロングコールについては配当落ち日の前に権利行使をしないと、配当額分かそれに近い額の損失を被ります。
その他注意点は以下です。
・仮に期限前権利行使をされても全体としての損益には影響ありませんが、それが権利行使されたくなかった状況の場合、コール買いを権利行使などして手仕舞いします。
・仮に原資産価格が権利行使価格を下回りそうなら、諦めてコールスプレッドを全決済します。
・プットスプレッドでは無くコールスプレッドなのは、期限前権利行使の可能性が低いからです。
・このコールスプレッドの当初の必要資金はかなり少ないですが、後でカバードコール(バイ・ライト)(株式ロング+ショートコール)やプロテクティブコール(シンセティック・プット)(株式ショート+ロングコール)に変わるため、必要資金は多くなります。原資産を期限まで扱わない方法でも、コール売りが期限前権利行使される可能性もあるため、プロテクティブコールの証拠金は用意しておく必要があります。実際にカバードコールやプロテクティブコールの注文の確認画面を見て、委託証拠金を確認してみてください。