VIX投資の方法は様々ありますが、私はVXXを空売りする手法を行っています。ボラティリティのショートによって利益を得る手法です。
ただしこれには相当なリスクがあり、これをヘッジするためにオプションを利用しています。
この手法について、今までの経験から得たことをここで公開しようと思います。
私の基本手法は長期でVXXをショートし続ける手法ですが、VXXが上昇した際に余力があれば追加で売ることについても解説します。
※追記・・・この記事ではコールオプションを用いたヘッジを薦めている部分がありますが、現在ではプットオプションのロングによる手法を薦めています。通常の口座では、コールオプションでヘッジすると、損失は限定されても証拠金余力の低下は限定されないからです(IB証券のポートフォリオマージン口座では大丈夫かもしれません)。記事の最後の追記で現在の私の方法についてまとめています。
目次
商品の選択
VIX関連銘柄はいくつかありますが、最も代表的で流動性も高いのがVXXです。流動性が高いことは、空売りする際の利点となります。というのも、空売りが規制されることがしばしばあるからです。流動性が高い銘柄の方が規制はされにくいのでは無いかと感じます。
また、VXZのようにVXXよりも値動きが少ない銘柄もあります。VXZは概ねVXXの1/3ほどの値動きのように思います。
VXXと逆相関で動くVIX関連銘柄もあります。インバース型と呼ばれ、SVXYなどが代表です。それらはロングすることで、ボラティリティをショートしたのと同じ意味を持ちます。
インバース型をロングする方法のメリットは、損失限定、利益無限大、複利が働く、ということです。ショートの場合は正反対の性質を持ちます。
しかしインバース型のロングのデメリットは、一日か数日のうちに「急激な価格下落に晒された場合、価格が戻ってこれない」、「長期的に価格に漸減作用が働く」ことです。これはレバレッジ型のロングにも当てはまる特徴です。
ロングポジションは、損失は投資資金全額に限定されており、順調に利益が出続けている状態なら複利が働くというメリットがあるものの、このデメリット、特に急激な価格下落に弱いという事を考慮すると安定的な資産運用には向かないと結論付けています。
インバースやレバレッジ型商品は、元となる商品における前日の価格に対する変化率に基づいています。その変化率をマイナスにしたのがインバース、何倍かにしたのがレバレッジ型です。
例えばVXXのインバース型の場合、VXXが仮に1日で70%も急騰したならば-70%となります。VXXが次の日は20%下落したならばVXXは1.7*0.8=1.36 つまり元の価格から36%上昇している水準となります。対してインバース型では0.3*1.2=0.36 つまり元の価格から63%下落した水準となります。このように値動きの上下が激しいほど、インバースおよびレバレッジ型は損失が膨らみやすくなります。逆に値動きが上下どちらかに一方的である場合は有利です。
このようなクセを抑えるためには、ロングの場合、価格が下がったらその分を穴埋めるように買い、価格が上がったらその分を売るということが必要です。しかし、常に機動的にそのようなことが出来るとは思えません。また、このような操作を行う事によってVXXのショートによる損益の値動きと近くなります。
インバース型、レバレッジ型商品には価格の急落に伴い償還条項が付いているものもあるので、それも注意すべき点です(2018年2月のVIXショックの際に実際に償還されるものが出てきて話題となりました)。
インバース型のロングは安定的な資産運用には向かないと言っても、VXXなどのショートなら安定的に運用できるかというとそれも一概には言えません。ショートは理論上、損失無限大だからです。
そのリスクへの対処法をこれから解説しますが、一番有用なのはオプション(コールオプションのロング)を利用することです。VXXの空売りを、コールオプションを購入することでヘッジできます。そのためにはオプションを利用できる証券会社を選ぶ必要があります。
VXXを空売りする代わりに、VXXプットオプションを購入するという方法があります。これは「VXXショート + そのヘッジのためのコールオプションのロング」と同じ意味を持ちます。この2つの手法は原理は同じなのですが、税制の扱いが異なります。詳しくは後述します。※追記・・・「VXXショート+コールオプションのロング」では、損失は限定できても証拠金余力の減少を限定できないため、強制決済が発生する可能性があります。そのためプットオプションをロングする方法のほうがお薦めです。
VIXオプションを利用することも可能です。ただこれは後述する米国VIと同じクセがあり、つまりVIX先物の満期に近づくにつれてリスクが増大するというクセがあります。ただし、遠めの限月のものを選んでロールオーバーしていく限りにおいてはそれほど差は出ないと思われます。一か月以下の満期のオプションの場合、満期が近づくに連れ加速度的にリスクが増大していくため注意が必要です。
また、VIXオプションは常にそれと同一の満期のVIX先物を対象とするため、遠い限月のオプションを選択する場合は必ずそれと同じ遠い限月のVIX先物が対象となります。私の投資手法はVXX(満期30日のVIX先物)に、一番遠い限月のVXXオプションを組み合わせるという手法ですがそれと同じ事は出来ません。VXXには幅広い限月のオプションが設定されていますが、VIX先物には常に同一満期のオプションしか用意されていないということです。例えば満期まで30日のVIX先物をショートし、満期まで100日のVIXコールオプションをロングしたとしてもあまりヘッジにはなりません。満期まで100日のVIX先物のリスクは相対的に低く、そのコールオプションもまた値動きが小さいからです。正確に言えばVIXオプションの原資産はVIX指数であり、VIX指数に対して幅広い限月のオプションが設定されている形となり、それ故にVIX先物にはそれぞれ同一満期の一つのVIXオプションが対応関係になっているということです。VIX指数そのものは取引できず、取引可能な形として様々な満期を持つVIX先物が存在します。そのためVIXオプションはVIX先物との関係で考える方が分かりやすいと思います。VIX先物オプションは存在しません。
VIXオプションの利点としては、空売り規制の影響を受けない事です。例えばVXXに空売り規制が発動されるとVXXオプションも取引停止になる可能性があるらしいのですが、そのようなことはVIXオプションには起きないと思われます。
それ以外の選択肢としては、GMOクリック証券が提供するCFDである「米国VI」があります。これもVXXと似たようなものなのですが、VXXは常に組入れしているVIX先物の満期平均が30日となるように日々少しずつ先物のロールオーバーを繰り返しているのに対し、米国VIは先物の満期が一週間程度まで近づいた時に先物を期先にロールオーバーします。つまり、VXXはリスクとリターンが一定であるのに対し、米国VIは組入れ先物のロールオーバー時期が近づくほどにリスクとリターンが増大するということです。
株式で例えるならば、その時期に近づくほどに、少しづつ株式を追加購入していっている、というような認識で良いと思います。そしてロールオーバーによって、今まで追加購入した株式分を全て売り、元通りのポジションに戻る、ということになります。
つまりロールオーバーという行為によって、一部が利益確定または損失確定されるということです。一部の損益を確定させたくなければ、ロールオーバーした直後にポジションを増やし、次第に様子を見ながらポジションを減らすという操作が必要です。
参考までに、VIX先物の満期7日と満期30日では、およそ1.5倍程度のリスク差があると思います。なので米国VIのロールオーバー日にリスク保有総量を変えたくなければ、ロールオーバー後にポジションを概ね1.8倍前後に増やす必要があります。ロールオーバー後の残り満期は30日よりも長いため、1.5倍より多めに見積もりました。
米国VIにはこのようなクセがありますが、それを差し引いても優秀な面があります。それはVXXなどの現物と違って貸株料がかからないこと、取引時間がほとんど一日中であること、VXXと違って価格が漸減しないため放置していても利益率が低下しないことです。
貸株料がかからないので、ポジションの保有コストは安くなります。また、逆日歩のようなコストもかからないのは大きな利点だと思います。売買時のスプレッドコストは多少高いと思います。また、相場が荒れた際はスプレッドが開くかもしれません。
取引時間が一日中であれば、機会損失が少なくなり、更にロスカットが機能しやすくなります。流石に土日は取引できませんが、それ以外であればほぼ一日中ロスカットが機能するため、取引所が開いていないとロスカットが機能しないVXXのような現物取引よりも安心してロスカット機能が使えます。
価格の漸減についてですが、VXXというのはロールオーバーによって発生する損益をVXX価格の中に反映するため、長期的に価格が漸減します。空売りではそれによって利益を得ます。米国VIの場合、ロールオーバーによる損益は価格に反映せず、価格調整額という形で外に放出されます。そのため価格自体は放置しても漸減していかないため、追加投資を必要としません。VXXの場合、価格が漸減すれば、それを穴埋めるように追加投資を行わないと次第に利益額が減少します。
逆に米国VIの欠点としては、割と新規取引の停止が起こりやすいことです。VIXが高騰したタイミングで新規取引停止が起こりやすいです。
GMOクリック証券はオプションによるリスク限定方法は取れないものの、ロスカットによってリスクを限定する方法を取る場合であれば米国VIは最有力候補です。
証券会社の選択
私は、VXX空売りのリスクをオプションで限定する方法が有用だと思っています。この方法を取るには、オプションの扱いがある証券会社である必要があり、VXXの空売りがスムーズに行えることが望ましいです。これは少なくとも海外の証券会社となります。
コスト面では、空売りにかかるコストが低いのが望ましいです。というのも、空売りにかかるコストが10%程度ある証券会社も珍しくはないからです。ただし、プットオプションをロングする手法を行うのであればVXXの空売りは必要ではありません。オプションの1取引単位は株式100株に相当しますので、プットオプションで行う場合、100株未満に相当する金額での売買が行えないのがデメリットです。一方で裸でのVXX空売りはリスクですので、そのようなリスクを全く取らないという意味ではプットオプションのみでの取引はメリットです。
これらの条件を満たすのがIB証券(Interactiv Brokers, インタラクティブブローカーズ)です。ただし、口座開設要件、オプション取引許可要件が高めということはあります。
Firstrade証券(ファーストレード証券)も有名であり、ここは貸株料が通常かからないというメリットがありますが、空売り規制が厳しいため、満足にVXXの空売りが行えません。しかし、プットオプションを購入する手法を取る場合は、選択肢となるかもしれません。ただ、VXXに空売り規制がある状況で新規にプットオプションを購入できるのかということの確認はしていません。
IB証券とFirstrade証券の詳しい紹介についてはFirstrade証券、およびIB証券について を参照ください。
税金の問題
IBを初めとした海外の証券会社を利用する場合、税金の問題があります。海外の証券会社で取引する場合、株式や先物、オプションなど全ての商品について、損失の3年間に渡る繰越が利用できません。
事業所得として申告する場合は別ですが、事業所得の認定は厳しいと思われます。
損失の繰越が出来ないという問題は、安定的な資産運用を出来なくさせるリスクです。例えば、ある年に100万の損失を確定させてしまったとして、次の年にその100万円分を取り戻したとしても、その100万円は利益として課税されるということです。
実質的には利益は出ていないにも関わらず、課税される恐れがあるということです。
次にそれに関わる税率ですが、株式であれば申告分離課税として20%、オプションや先物であれば総合課税となり15%~55%の累進性となります。総合課税は、給与所得などと合算した所得金額をもとに税率を計算し、平均的な収入であれば15%ですが高所得者は最高50%近い税率になります。
損失の繰越が出来ない点、総合課税の場合は税率が高くなる可能性がある点を考慮すると、次の投資方法が最もそれら税リスクを軽減させる方法です。
・VXXなどの株式を空売りし、できるだけ一定の含み益を常に残しておく。
プットオプションのロングなど、株式を利用せずにオプションのみを使用する方法では、年度内に損失が確定してしまう場合があります。オプションは限月が設定され、満期日には必ず決済しなければいけないからです。これは先物でも同じです。
つまり、年度内に損失を確定してしまう可能性をできるだけ避けることが重要です。そのためには長期保有が可能な株式が有利です。
しかし、株式の空売りの場合は必ずしもずっとポジションを保有していられる保証があるわけではありません。需給関係によって買戻しを迫られることも想定されるからです。これが起こるとしたら、相場が荒れている時、VIXが高騰してVXX空売りの損益がマイナス方向になっている時である可能性が高いです。
この事を想定して、仮に買戻しを迫られたとしても損失がなるべく出ないように備えることが第二の対策です。
つまり、なるべく含み益を残すようにするのです。
含み益が十分に溜まったら、その後は少しずつ決済していけば良いと思います。
ちなみにIB証券ではデフォルトでは先入先出法(決済時には古い株式から順に決済する方法)になっています。しかし日本の税制上は、IBの方法に関わらず「総平均法に準ずる方法」(決済する株式のポジション取得価格に平均価格を用いる)で計算します。
税金にはもう一つ問題点があり、それはオプションと株式の損益を通算できないことです。
コールオプションによるヘッジをしている場合、VXXが損失となってもオプションに利益が出ていることも考えられますが、オプションの利益とVXXの損失は損益通算できませんので、VXXなど株式グループ単体で損失を確定させないことが重要です。国内の証券会社で取引している上場株式で利益確定できるものがあれば、その利益と、海外の証券会社の上場株式(VXX含む)で確定した損失は損益通算できます。
逆に、VXXの利益とオプションの損失(コスト)も損益通算できません。「VXX空売り+コールオプションによるヘッジ」の手法では、VXX空売りに利益が出ている状態では常にオプションは損失となります。しかし、税金はVXXの利益全額に掛かってきますので、最終利益である「VXXの利益 - オプションコスト」に対する税率は20%よりも高くなります。この税率を抑えるためにはオプションコストを少なくするか、総合課税の雑所得に分類される収入を作って相殺するかする必要があります。
しかし私の試算では、オプションによって真面目にヘッジしようとすればVXXショートによる利益の半分程度をオプションコストが占めます。詳しくは後述します。その場合、オプションコストを引いた最終利益に対する税率は40%程度になります。オプションコストを他の収入で相殺できれば別ですが、これだけ大きなオプションコストを他の収入で相殺しようとするのも通常は難しいように思われます。この問題は、プットオプションの購入による手法を用いれば解決されます。プットオプションであれば全てオプション取引として完了するため、実質税率が高くなることもありません。一方でプットオプションの場合、満期日があるために前述したように年度内に損失が確定してしまうリスクがあります。そこで考えられるのは以下の方法です。
・最も満期日が長いプットオプションを購入し、相場が落ち着いている時を見計らってロールオーバーすることにより長期の満期を維持する。
VXXオプションの場合、もっとも満期までが長いもので最低1年半の残存期間があります。満期日までが長ければそれだけ猶予がありますので、その中のどこかのタイミングでは相場が落ち着いている時がある可能性が高いです。そのタイミングで決済し、ロールオーバーを行えば大きな損失が出ることはありません。もちろん、このように絶対できるとは言えません。「VXX空売り+コールオプションのロング」の手法の場合でも、VXXが強制決済される恐れが無きにしも非ずであり、年度内に損失が確定してしまう可能性があります。その対策として出来るだけ含み益を残しておくのですが、一方でVXX空売りにかかる損失は理論上無限大であるため、年度内に確定する損失が大きくなる可能性があります。プットオプションの場合は損失が限定されます。年度内に確定する損失が大きいほど、翌年度以降にその分を取り戻したとしてもその額が大きくなり、それに対する税も高くなります。
一方でプットオプションは総合課税であり、15~55%の累進性となります。そのため本人の所得によっては税率が高くなります。長期のオプションを利用するという方法は、後述しますがオプションコストを安定させるという意味でも有用だと思っており、私の投資手法にも合致します。
これら税金の問題を解決するもう一つの方法は、法人を作ってそこで投資を行うことです。個人の場合でも、事業所得として認定されれば損失の3年までの繰越は行えるようになります。ただしオプションと株式の損益通算は行えません。また、事業所得としての認定は厳しいと思われます。法人であれば損失の9年までの繰越およびオプションと株式の損益通算が行えますので、これら税制上の問題はほぼクリアできます。法人としては具体的には合同会社が適しています。しかし、法人税の実効税率はおよそ30%か30%弱であり、そこから配当として利益を個人に分配する場合、更に5%~20%の配当課税がかかります(配当控除を考慮)。これは収入に応じます。配当ではなく給与収入として出す場合は、その部分には法人税はかからず、代わりに個人の所得税(総合課税)がかかります。その辺りの事情を考慮しなければいけませんが、オプションを用いるVIX投資においては法人の設立を検討することも選択肢になると思います。
VXX強制買戻しへの対処
※現在VXXプットオプションを用いる方法を薦めており、それにはこの項目の情報は必要ないかもしれません。
VXXは流動性が極めて高い銘柄ですが、一応、あらゆるリスクは想定していなければいけません。仮に強制買戻しがあったとして、それはほぼVXXが高騰している時だと思います。ただ私が見ていた限り、2020年3月のコロナショックの際にVXXが暴騰した際は、VXXの空売り在庫が足りなくなったり強制買戻しのある兆候は見られませんでした。とは言えそのリスクは考慮しなければいけません。
そのような時に次の一手をどうするかについては投資家の判断にもよります。
VXXが高騰してこれ以上は危険だから、強制買戻しによって決済されるのは寧ろ好都合と考える場合もあるかもしれません。逆に、このまま何もしなければVXXが低下した時、損だけが残ってしまうと考えるかもしれません。
しかし、もともとオプションでヘッジしている場合は、ロスカットをする必要が無いため強制買戻しは単なる機会損失と捉えられます。
そこで、VXXの代わりとなる投資に繋げる必要が出て来ます。
VXX空売りの代わりとなり、かつ投資を制限されないであろう方法は、VIXオプションのプットのロングまたはヘッジ無しだとコールのショート、VIX先物売り、GMOクリック証券の米国VI売り、そしてSVXYなどのインバース型のロングです。VXXオプションはこういう時、VXXと同じく取引制限されますので利用できないと考えた方が良いです。
これら代替の方法がすぐに利用できるような環境にしておくことが大事だと思います。SVXYなどインバース型は、確かに価格急落後に価格が元の水準まで戻ってこれない可能性があるのですが、既にVIX指数が相当程度上昇しているタイミングで購入すれば、そのリスクはある程度抑えられるのでは無いかと思います。もちろん、絶対ではありませんが。
オプションについて
VXXを空売りした場合、どのようにしてオプションを用いるかについて解説します。私もまだ結論は出ていない部分もあります。ここでは「VXX空売り+コールオプションのロング」による手法について主に解説しますが、プットオプションによる手法の場合でも原理は同じであり、税制上の扱いが違うだけです。
※追記 現時点ではプットオプションのロング手法のほうをお薦めします。「VXX空売り+コールオプションのロング」では、損失は限定できても証拠金余力の低下は限定できず、強制決済の可能性があるからです。
プットオプションのロング=原資産(VXX)のショート+コールオプションのロング となります。ストライクプライス(権利行使価格)は同じものを選択し、コールオプションの場合のアウトオブザマネー(OTM)はプットオプションではインザマネー(ITM)となります。
まずオプション1枚(1コントラクト)は100株の原資産(この場合100株のVXX)に対応します。つまり、オプション1枚で100株のVXXを完全にヘッジ(損失限定)できるということです。
100株のVXXは価格にして2019年現在、25*100ドル=30万円弱となります。VXXを100株未満の単位で売買する場合、オプションはそれに合わせて売買しにくいということがあります。
このような場合、例えば80株未満のVXXポジションにはオプションを購入せず、80株を超えればオプションを一枚買ってヘッジするというような方法があります。または、100株未満の株式に対しては、コストの安い、より遠いストライクプライス(権利行使価格)のオプションで対応するという方法もあります。
オプションはコールオプションのロングを用います。そこで限月とストライクプライスの選択の問題があります。
まずは限月についてですが、私は最長の限月のオプションを選んでいます。コストだけで見れば、相場が落ち着いている状態が続くと仮定するならば、一か月程度のオプションを繰り返しロールオーバーしていくほうが期間コストは遥かに安いです。しかし、短い満期のオプションの最大の問題点は、ロールオーバーしたい時に相場が荒れておりボラティリティが高い場合、オプションプレミアム(オプションの価格)もまたかなり上昇しているためロールオーバーに伴うコストがかなり高くなるという点です。この状態が続けば、ロールオーバーコストが更に嵩むことが予想されます。
満期の長いオプションの場合は、相場が荒れた時にも、また相場が落ち着く時を待つことが出来ます。つまり、相場が荒れた時にロールオーバーしなければいけずコストが嵩むことを避けられる可能性が高いということです。必ずそれを避けられる訳ではありませんが、相場が落ち着いて原資産価格が低い(加えてボラティリティが低い)時に購入するほうがプレミアム(価格)はずっと安くなります。最長の限月は、少なくとも1年から2年程度となります。長期のオプションは、次の長期限月が設定された際に、相場が落ち着いている時を計ってロールオーバーします。
次にストライクプライス(権利行使価格)ですが、これはアットザマネー(ATM)からファー・アウトオブザマネー(far OTM)まで幅広く選択肢があります。
アットザマネー(ATM)のコールの場合、損失はゼロ、その代わりにオプションのプレミアムが高く付きます。
アウトオブザマネー(OTM)の場合、オプション購入時の原資産価格(VXX価格)との差が最大損失額となります。ストライクプライスが高く、原資産価格から離れれば離れるほどオプションプレミアムは安くなりますが、最大損失額も大きくなります。
私はVXX価格から2~3倍程度のストライクプライスのコールを選んでいます。
重要な注意点は、税制です。オプションコストはVXXの利益と損益通算できないため、オプションコストが嵩むほどに、税率は実際の利益額を基準にすると高くなっていきます。長期のオプションを使用する場合、ATMに近いオプションのコストは優にVXXの利益の半分以上を占めると思われ、その場合、税率は最終利益に対して2倍以上に成り得ます。
ただし、雑所得の総合課税収入が別に存在し、オプションコストと相殺できる場合であれば問題にはなりません。例えば、VXX空売り手法とは別にオプション売りなどによって収入を得ている場合です。むしろ、オプションコストを相殺するために積極的にオプション売りなどでオプション収入を得た方が良いと思います。それでもATMに近いオプションの多大なオプションコストを相殺するのは難しいと思われるので、その場合はよりOTMのオプションを選択するのが良いと思います。また、雑所得の総合課税というとソーシャルレンディングも当てはまりますのでこれに投資しておくのも良いと思います。プットオプションの購入による手法の場合は、この問題は起きません。
オプションコストの具体的な数値を示しますと、概ねATMの最長オプションがVXX価格に対して年率30%弱、ストライクプライスが2倍のOTM最長オプションが年率12%程度のコストです(相場が落ち着いている時)。ただしこれは、オプションを乗り換えることなくずっと持ち続けた場合のコストです。
私の方法ではオプションは満期まで保有することは無く、次の限月が設定されたらなるべく早く乗り換えます。この場合、オプションコストは更に高く付きます。というのもVXXが仮に順調に下げているとすると、オプションは長期のものほどVXXの価格下落に反応してオプションプレミアムが剥離しやすくなります。長期のオプションは、保有を始めた時が一番VXXの下落によってプレミアムが剥離しやすく、満期に近づくにつれプレミアムの剥離が遅くなるということです。つまり、同じオプションをずっと持ち続けて満期が近づくままにした場合のコストよりも、常にロールしてオプション満期を長期に維持する場合のほうが大分コストは高くかかります。なので上記の目安よりも実際はもっとかかります。
オプションにはデルタという指標があります。これは原資産の価格変化に対し、オプションプレミアムがどの程度の割合で変化するかを示したものです。オプション計算機は次のものを使用しました。→https://www.optionseducation.org/toolsoptionquotes/optionscalculator
算定に必要なインプライド・ボラティリティ(IV)については、基本的にストライクプライスがOTMになるほど徐々に高く、残存期間が短いほど徐々に高くなるため、それも考慮しています(数値の正確性は保証できませんが)。VXXオプションはアメリカンタイプとなります。
ちなみに、IB証券を利用している人はTWSのオプション分析ツールを用いれば、各オプションのデルタ等ギリシャ指標は簡単に分かります。
VXX価格からストライクプライスが2倍のOTMオプションのデルタは約0.35(残存期間1年)~0.4強(残存期間1年半)のようです。つまりVXXが下落した分の40%前後オプションプレミアムも下落するため、利益は60%近くにまで落ちるだろうということです。
ストライクプライスが2.5倍のOTMオプションの場合、デルタは約0.25(残存期間1年)~約0.35(残存期間1年半)となるようです。この場合、利益は70%前後まで落ちます。
ストライクプライスが3倍のOTMオプションの場合、デルタは0.2弱(残存期間1年)~0.3弱(残存期間1年半)となるようです。
ATMのオプションのデルタは0.7弱となるようです。
デルタは原資産価格とストライクプライスが離れるほど低くなります。ということは、VXX価格が下がってストライクプライスから離れるほどデルタは少しずつ低下しますので、オプションプレミアムの下落も少しずつ緩やかになります。
例えば、ストライクプライスが60のオプションを保有するとします。VXX価格が30の時デルタは0.4前後ですが、VXX価格が24まで下がればデルタは0.3前後となります。更に20まで下がればデルタは0.25前後となります。
そのため、VXX価格が下がり続けてもオプションのストライクプライスを変えない場合は、オプションコストが低下し利益率は上昇していきます。それに対し、VXX価格が下落するのに合わせてオプションのストライクプライスも下げて行き、ストライクプライスの割合をVXX価格から一定に保つ(例えば2倍、3倍など)手法を取る時に、デルタは一定を維持します。
つまり、例えばストライクプライスが2倍のオプションのデルタは0.4前後になるとは言え、それは継続的にその2倍の水準を維持する前提での話となります。
長期オプションはデルタの影響が大きいものの、それ以外にオプションにはタイム・ディケイ(時間価値の減少)という概念があり、時間経過によっても少しずつプレミアムが減少します。これはセータという指標で表されます。これについても計算機にて確認してみます。これを基に、残存期間が1年から1年半のオプションについて、原資産価格の何%に相当する値が日々減少するのかについて、その%を一年間分に換算(365を乗算)して示してみます。
ストライクプライスがVXX価格から2倍のコールオプションは、VXX価格の15%強(残存期間1年)~13%(残存期間1年半)に相当する額だけ、プレミアムが年間に減少するようです。
ストライクプライスが2.5倍のオプションは13%弱(残存期間1年)~12%強(残存期間1年半)の減少となります。
ストライクプライスが3倍のオプションは約11.5%(残存期間1年)~11%強(残存期間1年半)程度となります。
ATMのオプションの場合やや幅があり、約14%(残存期間1年)~約11%(残存期間1年半)程度となります。
注意点として、例えば残存期間が1年でストライクプライスが2倍のOTMオプションの場合、VXX価格の15%強に相当する額がタイムディケイによるコストとして発生することが分かりますが、これは残存期間1年を継続的に維持し、ストライクプライスもVXX価格から2倍の水準を維持するようにオプションをロールしていく仮定の上での話となります。VXXが下落してストライクプライスとの差が開いていくままにすればタイム・ディケイは緩やかになっていきます。上記にあるように、ストライクプライスがVXX価格の2.5倍となる水準までVXXが下落した時はタイム・ディケイは13%弱となり、3倍となる水準までVXXが下落した時はタイム・ディケイは11.5%程度となります。
ちなみに、仮にVXX価格に対するタイム・ディケイ値のパーセンテージは一定でも、VXX価格自体が下がることによってタイム・ディケイの絶対値も下がりますが、VXX空売り投資では落ち着いた相場の中でVXXが価格下落を続ける時、その下落を穴埋めるようにして追加投資を行いVXXのポジション額を維持します。この追加投資については後述します。また、追加投資分に対応するオプションも購入します。つまり、前述したタイム・ディケイ値の目安率をVXXの時価総額に乗算したものが、今後継続的にオプション(追加投資分に対するものも含めた)にかかるタイム・ディケイによるコストと見做して良いと思います。
このようなコストが、デルタによる価格下落コストと併せてかかることになります。
ここまでの計算方法の正確さについては全く保証できませんので、目安程度にして頂ければと思います。
こうして見ると、長期オプションはVXXが順調に下落をしている時はそれなりのコストがかかってくるということが分かります。その代わり、VXXが上昇している際はプレミアムも上昇しやすくなります。
短期のオプションをロールしていく方法のほうが、VXXが順調に下げていく状態であればコストは遥かに安いです。しかし荒れ相場が続いた時は、その中で短期のオプションをロールしていくほうがコストは高く付くのではないかと思います。どちらを取るかの問題だと思います。
荒れ相場の際、短期オプションに実際にどの程度のコストがかかるのかは、今後検証してみる予定です。
前述のように、長期オプションのデルタの水準は高く、VXXが上昇した際にもそのデルタ分だけオプションプレミアムも上昇します。更にVXX価格がストライクプライスに近づくに連れデルタ自体も上昇するため、更にオプションプレミアムの上昇速度も上がります。
そのため、例えストライクプライスがVXX価格から離れている時でも、長期オプションではオプションプレミアムが上昇しやすいため、その時点でもVXXの損失をある程度カバーすることが出来ます。逆に短期オプションの場合は、VXX価格がストライクプライスに近づかないとオプションプレミアムがあまり上昇しません。
このことから、長期オプションは短期オプションと比べて、遠いOTMであってもヘッジが効きやすいということは言えると思います。短期オプションの場合よりも、より遠いストライクプライスを選択してもリスクは一概に増えないということが言えるかもしれません。
ただし長期オプションの特性によって損失は限定できても必要証拠金まで同じように限定できるかは分かりません(プットオプション買いの場合は証拠金制度は関係ありません)。
長期オプションはどの程度のヘッジ効果があるのかについて試算してみました。
例として残存期間480日、ストライクプライスがVXX価格から3倍のOTMオプションについて、VXX価格が上昇するに連れてその損失をどの程度カバー(相殺)できるのかについて調べました。VXX価格は100とします。
VXX価格が2倍の200まで上昇すると、オプション価格は40弱上昇します。この時点での損失は60強です。
VXX価格が3倍の300まで上昇すると、オプション価格は初めの地点から100上昇します。この時点での損失は100です。
VXX価格が4倍の400まで上昇すると、オプション価格は初めの地点から180弱上昇します。この時点での損失は120強です。
VXX価格が6倍の600まで上昇すると、オプション価格は初めの地点から340強上昇します。この時点での損失は160弱です。
VXX価格が10倍の1000まで上昇すると、オプション価格は初めの地点から720上昇します。この時点での損失は180です。
ただし、この試算はボラティリティを一定水準(相場が落ち着いている時の水準)で計算しています。相場が荒れた際はボラティリティは上昇するため、実際にはもう少しオプション価格が上昇し、損失は抑えられると思われます。
この例ではストライクプライスがVXX価格から3倍のオプションを選んでおり、理論上の最大損失はVXX価格の2倍である200です。しかしその最大損失付近まで到達するのはVXX価格が少なくとも10倍以上になった地点であることが分かります。
この事から分かるのは、VXXの長期コールオプションは理論上の最大損失(原資産価格とストライクプライスの差)に到達するまでにはストライクプライスを遥かに超える原資産価格の上昇が必要であり、原資産価格がストライクプライス以下に留まる場面での損失は、理論上の最大損失額に遠く及ばないということです。
つまり、同じストライクプライスで比べるならば、短期オプションよりも純粋にヘッジ効果が高いという結果になりました。そのため、長期オプションの場合はより遠いストライクプライスを選択しても、通常は高いヘッジ効果が維持されやすいと思われます。しかし注意点としては、理論上の最大損失額は依然として遠いストライクプライスのほうが不利であり、原資産価格(VXX価格)が暴騰を起こすような局面では最大損失額まで到達し得えるということです。
VXXが高騰しているタイミングで空売りした場合は、オプション価格も相応に高騰しています。その時、オプションを同じタイミングで購入するのが一番安定した方法ではありますが、オプションコストを抑える方法としてはVXXが落ち着くのを待ってオプションを購入するという方法もあります。リスクとしては勿論、オプションによるヘッジが無いままVXXが更に高騰してしまえば損失が膨らむ可能性があるということです。
また、そもそもVXXオプション1枚はVXX100株単位に対応するため、VXXを小分けで空売りする場合はどうしてもヘッジ無しポジションが出来てしまいます。なので常に完全なヘッジを求めるのは不可能ですが、ヘッジ無しVXXポジション量があまり大きくならない範囲でコントロールするのが良いと思います。
→追記・・・VXXを裸で売るのはリスクであるため、プットオプションの購入のみで行うのが良いと現在では考えています。
長期オプションをより長い限月にロールオーバーする際も、コストを抑えるためになるべく相場が落ち着いている時を見計らってロールオーバーします。
オプションコストを抑えるもう一つの方法ですが、VXX空売りまたはプットオプションのロングをしつつ、低い権利行使価格にてプットオプション売りを行うことがあります。そうすることでプットオプション売りにより獲得するプレミアムが、オプションコストの一部を相殺します。
この場合、プットオプション売りの満期日にVXX価格がその権利行使価格を下回り、更に下回った額が獲得したオプションプレミアムを上回れば損失になります。この損失はVXXショートによる利益で相殺されるので、全体としてはゼロ損益ですが、VXXショートの利益損失にはなります。そのため、プットオプション売りの権利行使価格はVXX価格がそこまで下落し得ないだろう水準で設定するのが良いと思いますが、低すぎると受け取れるプレミアムも加速度的に低くなります。
より遠い(低い)権利行使価格のプットオプションを複数枚売るという方法もあります。これは、獲得するオプションプレミアムを維持しつつ、より損失となる可能性が低くなりますが、万が一その権利行使価格を超えてVXX価格が下落した場合は損失が膨らみます。危険そうであれば満期日まで待たずに損切を行うことも必要かもしれません。
VXX価格が高騰した際においてもこの方法は有効だと思われ、VXX価格は一定の水準を超えて高騰したら(例えばVIXが20を超える場合)、すぐには元の水準には戻らない傾向があるため、そのような時にVXXを空売りしつつ、低い権利行使価格にてプットオプションを売ることでオプションプレミアムを獲得することができます。
プットオプション売りの満期は短い方が安全だと思います(一週間前後)。その満期日までにVXX価格が到達し得ないだろう権利行使価格を設定すれば良いのではないかと思います。
私は実際に行っていますが、このようなオプション売り手法というのは、コツコツドカンという、勝率は高いけれども一度の損失が大きくなるという特徴があります。この手法が有効なのはおそらくボラティリティが高い時で、ボラティリティが低い平常時に行っても大きな利益にはなりにくい気がします。
VXX空売りの追加投資
VXXは過去平均で、一年間に50%ほど下落しています。VXXは放置すると、下落方向に作用する複利が原因で、次第に下落幅が減少します。次第に下落が緩やかになります。これは次第に元本が減っていくので、下落率は常に同じであっても下落率を掛ける対象の価格が減少していくからです。
そのため、VXX空売り投資では相場が落ち着いていてVXX価格が順調に下落していく際には、その減少した価格分を穴埋めるように追加投資し、VXXの価値を維持する必要があります。それによって下落方向に作用する複利の作用を無くすことが出来ます。
追加投資は、VXX内部でのVXX先物の日々のロールオーバー損失によるVXX価格下落を補うためのものです。そのため、VXX内部でのロールオーバー損失によらないVXX価格の下落の際には追加投資は必要ありません。これはVIXが下落するのに連れてVXXが下がった時のことです。
また、株式における複利のように、価格上昇方向に作用する複利を作り出すこともできます。その場合はVXXの価格下落を穴埋めし、元本を維持するだけでなく、VXXの利益分(価格下落分)をそれに更に上乗せすれば良いです。つまり、VXX下落分(利益分)の2倍の金額を追加投資するということです。ただしVXXが低水準の時に多くを投資するのもリスクがあるため、出来るならVXXが高騰している時に多くの投資を行いたいものです。しかし、VXXが高騰するかどうかは分からないため、今の水準が未来から見れば一番高い水準であったということも有り得ます。私は、常時維持するポジション額と、VXXが高騰した時に追加投資するための余剰資金額をそれぞれ決めることを勧めます。
追加投資によってVXX元本の価格を一定に維持すれば、VXXの利益率平均は年率60%程度となります。
元本を維持するだけでなく複利を生かすともっと利益率は高くなりますが、私はVXX価格が上昇した際に追加投資を行う方が安全ではあると思います。
この利益率からオプションコストを引いたものが実際の利益率です。
オプションについて解説した項目で示したオプションコスト(デルタおよびセータによる、オプション価格の減少額)をここから引いてみます。
前提としては、追加投資によってVXXの価格(時価総額)を維持し、利益率60%を想定します。残存期間平均を1年半とし、ストライクプライスのVXX価格に対する割合も維持するものとします。
ストライクプライスがVXX価格の2倍のOTMオプションを用いる場合、VXX価格に対する利益率は「60 * 0.58 - 13 = 21.8%」となりました。
ストライクプライスがVXX価格の2.5倍のOTMオプションを用いる場合、VXX価格に対する利益率は「60 * 0.65 - 12.2 = 26.8%」となりました。
3倍のOTMオプションを用いる場合、「60 * 0.72 - 11.2 = 32%」となります。
遠いOTMであるほどVXX価格に対する利益率は増えますが、最大損失額も増えます。
この試算の正確性には自信がありませんので、目安程度にしてください。
こうして見ると、真面目に長期オプションによってヘッジしようとすれば相当なコストが掛かることが分かります。特に税金の問題があり、オプションコストによってVXX空売りの利益の半分を持っていかれると最終利益に対して税率が2倍、つまり40%になります。税がかかると複利も利用しにくいため、複利を利用するためにはVXXの決済を可能な限り先送りするというのも手ではあります。
またはオプションの項で触れたように低い権利行使価格のプットオプション売りを行いオプションコストの一部を回収することが考えられます。またはプットオプション買いによる手法であれば実質税率が高くなる問題はありません。
「VXX空売り+コールオプションのロング」による手法では、オプションコストが嵩むほど実質税率が高くなるため、あまり近い権利行使価格(近いOTM)のオプションは選び辛いです。そのため、最大損失額が増えたとしてもオプションコストの安い、より遠いOTMのオプション(例えば3倍)を選ぶのが良いと思われます。対してプットオプション買いによる手法では実質税率が変わらないため、最大損失が少ない代わりにオプションコストの高い、近い権利行使価格のオプションを選ぶことも出来ます。
ここまでの試算ではVXXが高騰した際の追加投資分は含んでおらず、普段から保有するVXX空売りポジションについての試算となります。
常に一定額のVXX空売りポジションを維持しつつ、VXXが高騰したタイミングで少しずつ追加投資を行うという方法が良いと思います。
VXXが上昇した際の追加投資は一気に行うのではなく、少しずつ売り上がるように行います。どの程度の価格間隔で、どの程度の金額を追加投資するかは投資家次第ですが、あまり上昇していないタイミングで大きな金額を投資するのはリスクのある行為です。
→追記・・・VXXが上昇したタイミングでの追加投資には慎重になったほうが良いと現在は考えています。VXXがかなり上昇するまでは投資妙味は無いものと考えた方が良いと思います。また、追加投資にはプットオプションのロングで行うべきだと思います。
米国VIとの比較
オプションを使用するに伴い、様々なデメリットが発生します。海外証券会社を使わなければいけない事に伴う税金の問題が主にあります。
オプションを使用するので無ければ、GMOクリック証券の米国VIが優れています。
米国VIであれば、損失の3年間までの繰越が可能なので、年度内に損失を出すことを躊躇う必要はあまりありません。また、海外証券会社でオプションとVXXを併用した際のようにこれらの損益通算が出来ない、つまり最終利益額に対する税率が高くなるということもありません。
米国VIを使用する場合は、ロスカットを主としたリスク管理が必要となります。オプションよりは投資家の技量に左右されやすい方法と言えるかもしれません。
米国VIで長期のショートを行うならば、ロスカット水準を階段状に設定するのが良いだろうかと考えます。
例えばVIX指数が25を超えるまでは、VIが上昇するに従って少しずつ売り上がります。売り上がった追加投資分のロスカット幅(ロスカット値と建玉値の差)を一定にすることで、ロスカット水準は階段状になります。VIX指数が25を超えると割と相場が危険水域に入っていると見做し、追加投資を停止するか、VIを段階的にロスカットしていきます。
その後、相場が更に上がるようなら、余剰資金がある場合は様子を見ながら再び追加投資(ショート)をしていきます。逆に相場が落ち着いてきた時はロスカットされたVIポジションの分を再度ショートしますが、そのタイミングは投資家に依存することになります。
常時運用するVIの最大損失額と、VIが高騰した際に追加投資する分の最大損失額をそれぞれ決め、その中で運用することが大事だと思います。最大損失額から逆算し、VI一つあたりのロスカット幅を決定します。
以上のような投資戦略が考えられますが、私が実際に運用した上での経験ではありません。VXX+オプションとは別に米国VIでも運用してみようかとも考えます。
オプションは手軽にリスクを限定できますが、ロスカットは投資家のやり方によって結果が左右され、不安定要素のあるリスク管理方法ではあると思います。オプションを用いた場合に比べて損が少なく利益が出る場合もあれば、逆もあると思います。しかし米国VIは様々な優位性があるため、利用する価値はあるのでは無いかと思います。
オプションの原理というのは、例えばコールの場合、原資産価格(VXX価格)が上昇するに連れて原資産を段階的に買い、下落するに連れて段階的に売るという事を自動で行ってくれるシステムであると言えます。原資産0~100%の間で買いと売りを繰り返します。上昇すれば買い、下落すれば売るので、これは順張りとなります。ボラティリティが高いほど順張りにはコストがかかります。その代わり、これはショートポジションが高騰した際のロスカットを段階的・自動的に行うと共に、水準が元に戻ってきたら段階的・自動的に再度ショートするシステムとなります。
つまりロスカットとポジションの再構築を両方自動で行ってくれるシステムです。ポジションの再構築が無ければ、ロスカットした後に相場が元に戻った時でも、損失が回復しません。人間が手動で行う場合は、ロスカットだけなら簡単なのですが、ポジションの再構築することも含めるとなかなか難しくなります。ポジションの再構築をした後に、またロスカットを迫られる水準になることもあり、そのような事を頻繁に繰り返そうとすると難しいものがあります。しかしオプションならそれを自動で行ってくれます。
手動でロスカットを行う場合は、ポジションの再構築はある程度諦めることも必要かと思います。ロスカットが発動した後に相場が戻って、損失が回復しないリスクをある程度受け入れることが必要かと思います。その代わり、最大損失額はしっかりとコントロールできますので最悪のケースには対処できます。つまり、損失は取り戻せないケースが出るにしても、予め決めた最大損失額を上回る損失を出す可能性は低いということです。可能性が低いというのは、ロスカットが効くのは取引時間中だけであるという点を考慮してとなります。しかし、米国VIは土日以外ならほぼ一日中が取引時間となりますのでそのリスクも通常の株式と比べたら低いです。
現時点でのまとめ
できるだけ安全にVXX空売りを行う方法として、超長期のオプションを購入するという方法を紹介しました。しかし、これには相当なオプションコストがかかります。一方で短期オプションでは相場によってコストがかなり左右され、平常時であればコストはかなり低いものの荒れ相場では長期オプションのコストを遥かに上回る可能性があると考えています。
オプションによるヘッジを行う場合、「コールオプションの買い+VXX空売り」と「プットオプションの買い」の2種類の方法があります。
ちなみに、「最も低い権利行使価格のコール売り+コール買い」でも似た原理を作れます。「最も低い権利行使価格のコール売り」はVXX空売りの代替となります。しかし私が試したところ、コール売りが直ぐに権利行使されてしまいました(残存期間が1年以上あるにも関わらず)。この事からも、deepITMのオプションの売りは権利行使される可能性があるためお薦めできません。→追記・・・おそらく本質価値を下回る価格で注文したことが原因だと思われます。スプレッドは最低で0.01であるため、時間価値を0.02以上残したものを購入しないと、本質価値以下での注文になります。
「コールオプションの買い+VXX空売り」と「プットオプションの買い」の違いは、主に税制面となります。
私は今までは前者の方法で行ってきましたが、後者の方法も試してみようと思っています。大きな利点は、「プットオプションの買い」では最終利益に対する実質税率が変わらないこと、そして税制上の損失額が、実際の損失額と一致していることです。税率自体は総合課税となり高所得者には不利です。
「コールオプションの買い+VXX空売り」では、利益に対する元々の税率は20%ですが、オプションコストを必要経費として控除できないため、実質税率は2倍程度には容易になり得ます。それでも総合課税の最高税率よりは低いです。また、悪相場の中でVXXを決済しなければいけない状況があれば、税制上の損失額はVXX空売りの損失額となるため、実際の損失額(VXX空売りの損失額からオプションの利益を引いた額)よりも大きくなります。年度内に確定した損失額は翌年度に繰り越せないため(オプションを利用できる海外証券会社の場合)、その損失分を翌年度以降に取り戻しても、それに対して税がかかります。つまり、「年度内に確定した損失分*税率(20%)」の分だけ余計にコストが掛かります( *(アスタリスク)は乗算です)。VXX空売りの損失額は理論上無制限であり、相場によってはかなりの損失額になる可能性があるため、この点は気を付けたいところです。これを回避するためにVXX空売りを行う際には出来るだけ利益確定せずに含み益を蓄えておくという方法を紹介しました。
年度内に損失が確定する可能性に関しては「コールオプションの買い+VXX空売り」と「プットオプションの買い」でどちらも似たようなものだと思います。前者ではVXX空売りが途中で強制決済される可能性があり、後者では満期日までにロールオーバーが行えない場合(相場が1年間ずっと荒れていて、ロールオーバー時に損失が確定しないタイミングが見つからない場合)があります。
VXX空売りには強制決済リスクがあり、強制決済された際には代替の投資先を見つける必要があります。それに対してプットオプション買いでは強制決済リスクは無いのではないかと思います(新規建ては禁止されるようです)。
総合的に考えると、プットオプション買いのほうが利点が大きいかもしれないと思っています。総合課税による高税率対策としては、合同会社の設立が考えられます。
コールであれプットであれオプションを購入する際の注意点として、残存期間2年超の長期オプションは流動性が低くスプレッドがかなり開いており、スプレッドコストが高く付く可能性が高いということがあります。スプレッドが開いている銘柄は慎重に注文する必要があると思います。取引時間の始まりから30分~1時間程度はスプレッドが開いている傾向にあると思います。また、残存期間が2年超のオプションはスプレッドが広いので、残存期間が2年程度になるまで待った方が良いかもしれません。2年程度まで待てばスプレッドが狭くなると感じています。気配値から見るスプレッドは相変わらず広いのですが、実際にはスプレッドの中間ほどに指値を入れれば約定します。
またスプレッドコストを考慮すれば頻繁にオプションの乗り換えはせず、年に2~3回に留めるのが良いと思います。
追記
私は現在プットオプション買いによる手法を行っており、こちらの方法を薦めます。
また、VXXが高騰した際の追加投資は基本的に行っておりません。
現在の私の手法についてまとめます。
私はVXX価格の2~2.5倍程度の権利行使価格のプットオプションを選択しています。
そして期先限月が設定されたら適切なタイミングでロールオーバーを行います。
長期オプションについて新しい期限が設定されるのは年2回(1月期限物と6月期限物)です。新しい期限のものが設定された当初(残存期間2年半弱)はおそらくスプレッドコストが高いため、2年程度になるまで待ってからロールオーバーを考えます。例えば2024年1月19日期限物に乗り換える際は、私は2022年1月5日に乗り換えました。
気配値を見る限りではスプレッドが広くても、残存期間2年近くになると、スプレッドのほとんど中間ほどで指値を置くと約定するようになります。
この実質スプレッドが狭くなる時期は私も経験が少なく確たることは言えないので各自試されたら良いと思います(IB証券であればペーパートレーディング口座でも検証できるかもしれません ←無理でした)。
ただし、VIXの水準が高い状況ではロールオーバーコストが高いため、VIXが落ち着くのを待ってからロールオーバーを考えます。
また、このロールオーバー時には権利行使価格の調整(およびそれに伴う保有ポジションの増量)を必要に応じて行います。
VXX価格が順調に下落している状況では、VXX価格は権利行使価格から離れていきますのでそれを当初の比率あたりに戻す作業が必要です。ロールオーバー先の権利行使価格を現在のVXX価格に合わせて下げます。
またそうするとリスク量(およびリターン)が減るので、それを補うためにプットオプションの数量を増やします。
数量を増やす目安は難しいですが、私は適当に「現在保有しているプットオプションの購入金額+そこからの利益の半分」の金額のプットオプションを新しく購入することを目安にしています。もっと良い目安が無いだろうかとは思っています。
「利益の半分」というのは、利益の半分を利確して半分を再投資に回す意図があります。
この権利行使価格および保有ポジション数の調整によって、VXX価格が下落し続けることによるリターンの低下を防ぐことができます。ただし超長期オプションの場合はVXX価格が下落していっても直ぐにリターンは低下しません。VXX価格が下落するにつれ、オプション時間価値の下落幅も低くなっていくからです(これは短期オプションでも同じですが長期の物ほど影響が大きい)。
なので基本的には年2回の期先へのロールオーバーのタイミングで、この調整を同時に行えば足りると思われます。もしこのタイミングを待たずにVXX価格が例えば40%以上下落しているというケースであれば、この調整のみ行っても良いかもしれません。VXX価格に対して保有ポジションのデルタ総量を掛け合わせた結果を保有リスク総量と仮定して、この量がどのように変化しているかを確認するのが良いと思います。これがある程度低下しているならば調整が必要ということで良いと思います。
ロールオーバーに関して注意が必要なのが、VXXの逆スプリット(reverse split)(株式併合)が行われた際です。逆スプリットでは、現在保有しているオプションは原資産が「VXX1」などの名称に変更され原資産価格は据え置きになる一方、併合後の「VXX」を原資産とした新たなオプションが設定されます。
そのため、何れかの時期に新しいオプションに乗り換える必要があります。一説によると、古いオプションは次第に流動性が落ちるため早めに乗り換えた方が良いとも聞くのですが、私の経験上では焦らないほうが良いです。次第に流動性が落ちるどころか、残存期間が短くなるに連れて、通常と同じようにスプレッドが狭くなっていくように思います。
なので通常通り、新しいオプションの方に期先限月の物が設定されればそれが残存期間2年程度になるまで待ってからロールオーバーするのが良いと思います。
また、VXX併合後の新しいオプションに乗り換える際は、スプレッド注文が使えません。原資産が異なる銘柄扱いになるからです。なので個別に注文を出すしか無いように思われます。
この超長期プットオプションを用いる手法では、相当のオプション時間価値のコストがかかるため、利益率はVXXを裸で空売りする場合と比べると相当低下します。リスクを出来るだけ抑えた方法なので当然です。
そのため株式投資に比べて明らかな優位性がある訳では無いと思います。しかし、株式とは利益の出る状況が異なるため、分散投資の一環として考えると良い投資先だと思います。
またリスクを出来るだけ抑えていると言ってもそれなりのリスクはあるため、この手法単体に大きな割合で資金をつぎ込むよりも、分散投資の一環として用いるのが良いと思っています。